法律相談所 たいとう

解決事例
子ども・障がい者・高齢者

いわゆる「離婚後300日問題」で無戸籍状態になっていた子どもの事例

相談内容

 A子さんは,B男さんと結婚していましたが,B男さんからのDVに耐え兼ねて,逃げるようにして実家に身を寄せました。

A子さんは,B男さんに対する強い恐怖から,B男さんと直接連絡を取ることができなかったため,生活費や離婚についての連絡は,全て両親を通じてしてきました。

B男さんは,なかなか離婚に応じませんでした。

それから10年の時が流れ,A子さんは職場の同僚C男さんと交際を始め,いっしょに暮らすようになりました。

翌年,やっとB男さんが離婚に応じ,A子さんとB男さんは離婚届を提出しましたが,その直後,A子さんはC男さんの子を妊娠していることがわかりました。

A子さんとC男さんは,A子さんの再婚禁止期間(民法733条)が経過した後に婚姻届を提出し,その後に子どものDちゃんが生まれました。

Dちゃんの出生届を区役所に出そうとしたら,戸籍係の人から「出生届を出すと,Dちゃんは,A子さんと前夫のB男さんとの子として戸籍を作ることになります。」と言われてしまいました。

A子さんは,「DちゃんはC男さんの子どもであることに間違いないし,DV加害者であるB男さんの子とされてしまうなんて…」と悩み,出生届を出せずにいました。

B男さんに知られることなく,DちゃんをC男さんの子として出生届を出したいと考え,A子さんは弁護士に相談しました。

受任結果

民法772条では,離婚から300日以内に生まれた子どもは,前夫の子であると推定されることになります。

このケースでは,Dちゃんが生まれたのが,A子さんと前夫のB男さんの離婚から300日以内だったために,戸籍係の人が言うように,出生届を出せば,戸籍上はB男さんの子となってしまうのです。これがいわゆる「離婚後300日問題」です。

DちゃんをC男さんの子として出生届を出すには,Dちゃん(実際には,その法定代理人である母A子さん)から①A子さんの前夫B男さんに対する親子関係不存在確認請求(調停・訴訟)をするか,②実の父であるC男さんに対する強制認知請求(調停・訴訟)をして,親子関係を確定させる必要があります。

この2つの手続きのうち,①親子関係不存在確認請求は,B男さんを相手方当事者にしなければならないので,A子さんが離婚成立前からC男さんと交際していたことなどがB男さんに知られてしまいます。

これに対して,②強制認知請求であれば,B男さんを相手方にすることなく,また,形式上「相手方」という立場のC男さんの協力は得られるため,手続きはスムーズです。

ただし,その場合であっても,B男さんに全く知らせず,意見を聴かずに手続きを進めるかどうかは裁判所の判断によります。

そこで弁護士は,A子さんとB男さんが長期間にわたって別居しており,当時から婚姻関係は破綻していたので,DちゃんがB男さんの子であることは考えられず,B男さんを手続に関与させる必要性はないことや,手続にB男さんを関与させることで,A子さん,C男さん及びDちゃんに対して危害を加えられるおそれが高いことなどを主張立証しました。

その結果,裁判所は,B男さんを手続に関与させないことが相当であると判断し,A子さん,C男さん及びDちゃんのDNA鑑定を実施した後,DちゃんがC男さんの子であるとの,合意に相当する審判を出しました。

これによって,B男さんには知られることなく,C男さんを父とするDちゃんの出生届を出すことができたのです。

本件のポイント

出生届を出さないと,Dちゃんは戸籍がない状態,いわゆる「無戸籍」と呼ばれる状態になってしまいます。

戸籍がないと住民登録もできないため,様々な行政サービスが受けられず,Dちゃんにとって大きな不利益となります。

Dちゃんを無戸籍にしないためには,上記のような法的手段を執ることができますし,このケースのように事情によっては,前夫に知られることなく手続きを進めることができます。

また,離婚後に妊娠したことを医学的に証明することができるときは,裁判手続を経ない場合であっても,前夫の子という扱いにはなりません。

ご相談自体は妊娠中でもお受けできますので,早めのご相談をお勧めします。

なお,法的手続が完了して出生届を出す前の間であっても,自治体によっては,特例として予防接種などの行政サービスを受けることも可能です。