法律相談所 たいとう

解決事例
一般民事(労働を含む)

賃貸物件のオーナーチェンジに伴う明渡請求に対抗した事例

相談内容

 Aさんは、30年前から木造の賃貸物件で、小さな工場を営んでいました。オーナーのBさんとは旧知の仲で、賃料はずっと同じ金額でしたが、一度も遅れずに支払ってきました。
 ある日Aさんのもとに、C社から、「本件建物をBさんから買い受けた。建物が古くなっていて取り壊すので、1か月以内に立ち退いてほしい」との手紙が届きました。
 Aさんはびっくりして、弁護士に相談しました。

受任結果

 Aさんは、Bさんとの間できちんと賃貸借契約書を作成しており、また、30年前からずっと賃料も遅れることなく支払い続けてきました。これによって、Aさんが本件建物の賃借権を有していることは明らかでした。

 他方で、Aさんはご高齢になられていて事業は縮小傾向にある上、たしかに建物はある程度老朽化しており、長く工場を続けるつもりはないとのことで、Aさんも、本件建物の明渡しについては、条件次第では応じることができるとの意向でした。

 30年間賃料増額がされていないために、仮にC社から賃料増額請求がなされた場合には増額が認められる可能性が高いことや、今後、工場を閉じる際には、工場内の機械をAさんの費用で処分しなければならないこともあり、Aさんと弁護士は、Aさんに有利な条件を整えたうえで建物を明け渡すという方針を採りました。

 弁護士は、法的にはAさんに本件建物を明け渡す義務がないことを前提に、事業ができなくなることについて金銭的な補償が必要であることをC社に対して主張しました。交渉の結果、Aさんが本件建物から必要なものを持ち出す十分な時間的な余裕と、立ち退かなければ得られていたはずの収入の3年分程度に相当する立退料、そして工場内の機械等の残置物を全てC社の費用で処分することを条件として、C社との間で合意書を作成しました。

 その後、Aさんは工場内を整理して、C社と合意した明渡期限の日に弁護士がAさんの代理人として明渡確認に立ち会って、立退料をC社から受領しました。

本件のポイント

 賃貸物件のオーナーチェンジに伴い、賃料増額請求がなされたり、乱暴な明渡請求がなされるケースがあります。借主の立場からすると、「大家さんから出ていけと言われた」というだけで、当然に出ていかなければいけないと思い込んでしまうのも無理はありません。
 しかし、賃貸借契約の借主は、民法及び借地借家法により守られています。
 まず、賃貸物件のオーナーチェンジがあった場合、建物の所有権移転登記がなされていれば、原則として前の貸主が、借主との間の賃貸借契約をそのまま承継します(民法605条の2)。

 賃貸借契約が継続している限りは、貸主が借主に対して建物の明渡しを求めることは法的に許されません。そして、貸主から賃貸借契約を終了させることができるのは、「正当の事由」があって契約更新を拒絶する場合ないし解約申入れをする場合(借地借家法28条)か、賃料不払い等の契約違反を理由に契約を解除する場合(民法415条、545条)だけです。

 本件では、貸主であるC社側から解約する「正当の事由」も解除事由もなく、法的に建物を明け渡す義務はありませんでしたが、単純に明け渡しを拒めば、C社から賃料増額請求(借地借家法32条)がなされることは目に見えていました。
 Aさんは、Bさんとの間で取り決めた低額の賃料であったからこそ、細々と事業を続けてこれたものの、今以上に賃料がかかるとなると、事業は赤字となり、立ち行かなくなってしまうという事情がありました。もちろんAさんは、長年続けてきた工場を閉じるということに寂しさはお持ちでしたが、これを機に、いつか整理しなければならない事業を金銭的な負担なく整理し、立退料を元手に、第二の人生を歩むという選択をされました。

 仮にAさんが賃料を支払っていなかった場合には、その期間によっては、賃料不払いを理由として、オーナーから賃貸借契約を解除することができるようになります。

 突然のオーナーチェンジの連絡や賃料増額請求に戸惑ったからといって、賃料を支払わずにいると、オーナー側に解除権を与えてしまうことになりかねません。賃料を誰に支払えばいいのか、いくら支払えばいいのか等、賃料の支払いにお困りの際も、弁護士にご相談ください。