「尊厳死宣言公正証書」をご存じですか?
1 尊厳死宣言公正証書の意味と役割
2007年に「超高齢社会」(高齢者が20%を越えている状態)を迎えた日本は、これから、多死社会を迎えます。誰もが、人生をどう謳歌し、そして、どう閉じていくのかを考えざるを得ません。
死期が迫り、現在の医学ではもはや延命しかできない状態に至ったときでも、人工呼吸器や胃ろうによって延命することは可能です。
ただ、ひとたびこれらの延命措置を始めたら、途中で止めることはとても難しいことです。特に、治療にあたる医師にとっては,どのような形であれ,その人が現に生命を保っている以上、死に直結する措置をとる行為は、刑事・民事上の責任を問われるかねません。
そこで、あらかじめ「尊厳死宣言公正証書」を残しておくことが考えられます。
尊厳死宣言公正証書とは,本人が自らの考えで尊厳死を望み,延命措置を差し控え、中止してもらいたいという考えであることを公証人の面前で宣言し、公証人がこの事実を公正証書として記録するものです。
尊厳死の普及を目的とする日本尊厳死協会によれば,「尊厳死の宣言書」を示した場合には、95%を越える医師が、その希望を認めているという報告がされています。
2 実際の尊厳死宣言公正証書の例
では、実際の尊厳死宣言公正証書の例をご紹介します。
医療措置に関する具体的なご要望は、それぞれのお気持ち・お考え次第です。例文では、胃ろうを例に挙げていますが、このほか、検討しておきたい医療措置として「経鼻経管栄養」(細いチューブを鼻から胃へ通して栄養などを摂取する方法)などもあります。
また、配偶者や子どもたちなどのご家族が、ご本人の尊厳死宣言に同意していることを明記する例もあります。
尊厳死宣言公正証書
本公証人は、嘱託人たいとう花子の嘱託により、平成×年×月×日、東京都千代田区神田佐久間河岸78第二阿部ビル2階において、次の通り、陳述を録取し、この証書を作成する。
第1条
尊厳死宣言者である私たいとう花子は,私の病気が現在の医学では不治の状態であり,かつ,死期が迫っている場合にそなえて,宣言者の家族及び医療に携わっている方々に向けて,以下の要望を致します。
① 宣言者の疾病が,宣言者の担当医師を含む2名以上の医師により,現在の医学では不治であり,かつ,すでに死期が迫っていると診断された場合には,死期を延伸するためだけの、気管切開による気道確保や人工呼吸器の装着などの延命治療は一切行わないでください。
② 前項の場合,宣言者の心身の苦痛をやわらげる治療や処置は、最大限に実施してください。そのために投与した鎮静・入眠剤や麻薬などの使用によって死亡時期が早まってもかまいません。
③ 口から物が食べることができなくなった場合には、胃ろう造設による栄養補給は拒否します。
第2条
宣言者が、回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥ったときは、生命維持措置を取りやめてください。
第3条
宣言者が以上のような延命措置に関する指示をする能力を失った場合、この宣言が、宣言者の法的権利の最後の意思表示として、宣言者の家族及び医師その他すべての関係者により尊重されることを希望します。
第4条
宣言者は,本宣言による宣言者の要望を受容し,これにしたがってくださる方々に深く感謝申し上げます。その方々がこの要望に沿って行われた行為の責任の一切は宣言者自身にあります。 警察,検察の関係者におかれましては,宣言者の家族及び担当医師の方々が宣言者の要望に沿った行為を行ったことをもって,犯罪捜査や訴追の対象とすることのないよう,特にお願い申し上げます。
第5条
本宣言は,宣言者の精神が健全な状態にあるときにしたものです。したがって,宣言者が健全な精神状態にあるときに撤回しない限り,その効力が存続するものであることを明らかにしておきます。
3 作成に必要なもの・費用
公正証書作成には、ご本人の印鑑証明書・実印が必要です。
また、ご家族の同意を求める場合には、戸籍謄本や家族の了解書の提出が求められる場合もあります。
経費は、主に公証役場にお支払いする費用です。
原本のみを作成する場合、1万1000円
(作成に要する執務時間が1時間以内である場合を想定)
正本や謄本を作成してもらう場合、1部につき1000円
公証人に、出張日当をお支払いし、ご自宅や病院に出張していただくことも可能です。
*公正証書の内容を一緒に考え、作成する業務を弁護士に依頼する場合の費用の目安*
1 作成手数料(ご相談料含め) 金5万円(税別)
2 作成日の立ち会い日当 金2万円(税別)
3 実費 (業務量によって実額をご負担いただきます。)