法律相談所 たいとう

解決事例
家事

海外に出国したまま連絡が取れなくなった相手に対して離婚訴訟を提起した事例

相談内容

A子さんは、アルバイト先で出会った外国人のBと結婚しました。

しかし、Bは結婚した後も「出稼ぎに行く」などといっては、同郷の仲間とばかり一緒に過ごして、そのうち、電話にも出なくなりました。

心配したA子さんは、Bとの共通の友人に相談しましたが、なんとBは本国に帰って仕事を始めており、当分日本に戻るつもりはないらしいとのことでした。

あまりに自己中心的なBに嫌気がさしたA子さんは、Bとの離婚を決意し、弁護士に相談しました。

受任結果

A子さんは、Bの本国での住所も知らず、手元にあるのはBのパスポートのコピーだけという状況でした。

弁護士は、Bに対して、離婚訴訟を提起し、Bの居場所を調べる術がないことから、「公示送達」の方法で訴訟を進めてもらうことを考えました。

そのために、弁護士は、裁判所に対して、Bの居場所がわからない状況であることを説明するため、出入(帰)国記録や外国人登録記録等について「弁護士会照会」という制度を用いて調査を行いました。

そして、こうした調査をした結果、Bが一度出国してからは入国した記録がないことや、Bの本国での住所地などの個人情報の記録が残っておらず、これ以上、調べることができないことなどを、資料と共に裁判所に報告しました。

その結果、裁判所は、Bに対する離婚訴訟を公示送達という方法で進めることを認め、訴訟は、B不在のまま、わずか1回の裁判期日で終結し、無事に離婚を認める判決を得ることができました。

本件のポイント

一般に、裁判所が裁判を始めるためには、相手方となる「被告」に対して、原告が提出した訴状と一緒に、第1回弁論期日がいつどこで開かれるのか、その期日までにどのような対応が必要なのか、などの裁判所作成の案内文を「送達」しないといけません。「送達」とは、特別送達と呼ばれる、郵便局員が被告の住所地を訪問して、被告本人または同居している親族等に直接手渡す方法、つまり、ちゃんと相手にわたったことの証拠が残る形で文書を届けることを言います。

そして、外国にいる外国人を被告とする場合、原則として「外国送達」が必要となります。これは、当該外国の協力を得て、外国に駐在する日本の領事館等から「送達」をしてもらう方法で、翻訳文を作成する手間が余計にかかったり、送達に必要な期間についても、数か月から1年程度を要する場合もあります。

他方で、被告が今どこに住んでいるのか、調べてもわからないような場合には、そもそも文書を届けようがありません。それでも、裁判を通じて、法的な問題を解決しなければいけない場合に備えて、「公示送達」という特別な「送達」があります。

公示送達が認められると、裁判所は、送達の対象となる文書を、裁判所のある場所に、一定期間掲示します。そして、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載することで、実際には被告には手渡されていないけれど、有効に送達がされたものとみなして、裁判が進みます。そのため、公示送達で裁判を進める場合、ほとんどのケースで被告は裁判に現れません。そのため、訴状の内容をそのまま認める判決が下されることが期待できます。

そして、この方法は、被告が外国にいる場合であっても、法律の条件を満たせば利用することができるのです。

では、どのような条件を満たす必要があるのでしょうか。
公示送達は、大変便利で、強力な制度なので、裁判所が簡単に公示送達を認めてしまえば、被告となる人には不利な結果となります。そこで、裁判所に公示送達をしてもらうためには、被告の住所について可能な限りの手を尽くして探してみたけれど判明しないという事情を、資料を添えて説明する必要があります。

外国に出国してしまった外国人の場合には、出入国記録を調べたり、在留カードの登録情報、住民票の移動状況などを調べて、可能な調査を尽くしたけれど、本国での住所地など、本人の住んでいそうな場所がわからないということを、資料を添えて説明します。

なお、国内に住んでいる被告への公示送達は、掲示を始めた日から2週間の経過により送達の効力が生じますが、外国公示送達の場合は、6週間の経過によって送達の効力が生じるとされています(民訴法112条2項)。