2017年2月28日、文部科学省は、「平成27年度『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』(確定値)について」を発表しました。
(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/02/1382696.htm)
この調査は、毎年、学校における暴力行為やいじめ、不登校、中退などの生徒指導上の課題について、全国的に調査し、その状況をまとめたものです。
平成27年の調査報告によれば、以下のようなことが見えて来ます。
1 暴力行為
・小中高全体の暴力行為の総発生件数は56,806件で、子どもたち1000人あたりの発生件数は4.20件でした。
(前年の総発生件数は54,246件、子どもたち1000人あたりの発生件数は3.98件)
・小学校での暴力行為が顕著に増加しています。
・中学校では、平成25年に発生件数が上昇したものの、その後は減少傾向です。
・暴力行為に対する関係機関の関与について、小学生については、児相が一番関与しています(94件)。中学生については、警察が一番関与しています(801件)
2 いじめ
・いじめ の総認知件数は、225,132件で、1000人あたりの認知件数は、16.5件でした。
(前年の総認知件数は188,072件で、子どもたち1000人あたりの認知件数は13.7件でした。全体として19.7%増となります。)
・一校あたりの認知件数 は、5.9件でした。(前年は4.9件)
・いじめ認知件数は、小学生で顕著に増加しています。中高生も増加傾向です。
・いじめ防止対策推進法上の重大事態に該当するものは、314件でした。(前年449件)
・パソコン、携帯を通じたいじめは、認知件数全体の4.08%とのことです。
・認知されたいじめについて、警察へ通報したものは、全体の0.4%でした。
・いじめ発見に向けた取り組みとして、多くの学校がアンケートを行っていました。そして、その具体的な手法の傾向としては、実施回数年2~3回、記名式、回答内容選択式が最も多いようです。
・いじめる児童生徒への特別な対応では、「別室指導」が、小中高共に顕著に増加しています。
・いじめられた児童生徒への特別な対応では、スクールカウンセラーなどによる継続的カウンセリングと、別室提供が顕著に増加しています。
・いじめ防止対策推進法上の重大事態に該当するものは、314件でした。(前年449件)
・このうち、いわゆる1号事案 は、130件(前年92件)、2号事案 219件(前年385件)でした。
【参考条文】
いじめ防止対策推進法第28条(学校の設置者又はその設置する学校による対処)
1項 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
2項 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
3項 第一項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。
3 出席停止
・出席停止の件数は15件(前年25件)で、小学6年生が1件、中学2年生が7件、中学3年生14件でした。
【出席停止とは】
学校は,児童生徒が安心して学ぶことができる場でなければならず,その生命及び心身の安全を確保することが学校及び教育委員会に課せられた基本的な責務です。学校において問題行動を繰り返す児童生徒には,学校の秩序の維持や他の児童生徒の義務教育を受ける権利を保障する観点からの早急な取組みが必要であり,児童生徒を指導から切り離すことは根本的な解決にはならないという基本認識にたって,一人一人の児童生徒の状況に応じたきめ細かい指導の徹底を図ることが必要です。
しかし,公立小学校及び中学校において,学校が最大限の努力をもって指導を行ったにもかかわらず,性行不良であって他の児童生徒の教育の妨げがあると認められる児童生徒があるときは,市町村教育委員会が,その保護者に対して,児童生徒の出席停止を命ずることができます。(学校教育法第26条,第40条)。
この出席停止制度は,本人の懲戒という観点からではなく,学校の秩序を維持し,他の児童生徒の義務教育を受ける権利を保障するという観点から設けられています。
(文部科学省HPより引用)
4 不登校
・不登校児童生徒数は、125991人で、不登校児童生徒の割合は1.26%となり、前年を上回っています。
(前年の不登校児童生徒数は122,897人で、不登校児童生徒の割合は1.21%でした。)
5 高等学校の中途退学
・高校生の中途退学率は、減少傾向です。
・ただし、私学は経済的理由による中途退学が増加しています。
6 自殺
・平成27年度について学校から報告のあった子どもの自殺は、215件でした。小学生4件、中学生56件、高校生155件です。
(前年は232人。小学生7件、中学生54件、高校生171件)
・自殺した児童生徒の置かれていた状況として、「いじめの問題」が確認されたものは9件で、小学生が1件、中学生が5件、高校生が3件でした。
(前年は5件、小学生0件、中学生3件、高校生2件)
(質問)
私と夫との間には小学校5年生の娘がおり、この度、離婚することになりました。娘の親権者は、母親である私がなります。
しかし、名字のことで娘と揉めています。 私は旧姓に戻したいのですが、娘は反対です。私と娘が同じ戸籍に入るためには、どうしても同じ名字を名乗らないといけないと聞きました。一体どうしたらよいのでしょうか。
( 回答)
日本の制度上、戸籍は、1つの夫婦と氏を同じくする子どもごとに編製されます(戸籍法6条)。
1つの戸籍に入っていた夫婦が離婚をする場合、結婚をするときに氏を変更した者は、結婚中の戸籍からは除かれて、原則として結婚前の戸籍に戻ります。そのために、離婚によって旧姓に戻るということが起き、これを「復氏」と呼びます。(なお、婚姻前の戸籍に戻るのではなく、新戸籍を編製することを申し出ることもできます。)ただし、離婚する場合、必ず旧姓に戻さなければならないということではなく、離婚の日から3か月以内に届け出ることによって、婚姻中の氏を引き続き使用することもできます。これを「婚氏続称」と呼びます。婚氏続称をする場合、結婚前の戸籍にも戻れませんので、婚姻中の氏で全く新しい戸籍が編成されることになります。
さて、夫婦が離婚をした場合の子どもの戸籍の取り扱いはどうなるのでしょうか。
ご質問のケースでは、母親が親権者となるそうですが、親権者が旧姓に戻ったり新しい戸籍が編製されても、子どもの氏や戸籍には影響を与えません。そこで、何もしなければ、娘さんは父親の氏のままで、父親の戸籍に入り続けることになります。
そこで、離婚後に、婚姻中の戸籍から抜ける者(ご質問の場合、母親)が、子どもを自分と同じ戸籍に入れる場合には、家庭裁判所に子の氏の変更についての許可の審判を申し立て、許可を得る必要があります。 この申立ては、子どもが15歳未満の時は、法定代理人(ご質問のケースの場合、親権者である母親)が行い、15歳以上の場合には子ども本人が申し立てます。
ただし、ご質問では、子と母親が同じ戸籍に入りたいけれど、離婚後に名乗る氏について意見が一致していないとのことです。残念ながら、日本の法律では、「氏を同じくする子」でなければ同じ戸籍に入れませんので、子と母親が戸籍上別の名字のまま、同一の戸籍に入る方法はありません。
そこで、考えられる選択肢としては、
①母子がそれぞれ希望に沿った別の氏を名乗ることを優先して、子は父親の戸籍に残したままにする。
②同じ戸籍に入ることを優先して、
(ⅰ)母親が旧姓に戻ることをあきらめ、婚氏続称した上で、母親の氏への変更申立てを行う。
(ⅱ)娘さんを説得して、母親の旧姓に一緒に変更してもらう。
ということになります。
なお、第三の選択肢として、母親の職場や、子どもの通う学校の協力を得て、実生活上の場面では戸籍と異なる名字を名乗るということも考えられます。この場合には、どこまでの理解、協力が得られるかよく話し合い、調整する必要があります。
速い速度で硬球が飛び交う野球部の部活動では、様々な生徒の負傷事故が起き、こうした事故の責任が裁判で争われてきました。主要な裁判例としては、以下のようなものがあります。
◎学校の責任を肯定した事例
(1)京都地裁H5.5.58判決(判例タイムズNo841、P229)
【事案の概要】
公立中学校の野球部紅白戦中、主審を務めていた野球部員の目にファールチップの球が当たった事例
【判断の主な理由】
主審をする者がマスクを着用しないことはその生命身体にとって極めて危険であり、当該部活動においては、野球部員がマスクをしないまま紅白戦の主審をすることが結構あり、そうした状況を指導監督する教員も知る機会があった。
そうである以上、野球部の指導監督をしていた教諭は、平素から、部員に対し、審判をする際の危険性について周知徹底するとともに、必ずマスクを着用することを指示するなどして指導すべきであった。
(過失相殺4割)
(2)東京高裁H6.5.24判決(判例タイムズNo849、P198)
【事案の概要】
県立高校の野球部の部活動中、薄暮の時間帯にハーフバッティングを練習していたところ、打球が投手を直撃した事例
【判断の理由】
ハーフバッティングは、実施の時間帯や方法の如何によっては投手にとり危険性の高い練習方法であって、投手には投球後直ちに防球ネットに身を隠すよう指導するほか、必ず明るさなど条件がよい時間帯に行うなどきめ細かく安全に配慮した上実施するべきであった。しかし、本件では、そうしたきめ細かい配慮がなされないまま、薄暮の時間帯になっても続けられていた。
【コメント】
ハーフバッティングのような一般的にポピュラーな練習方法であっても、漫然と練習させるのではなく、実施の時間帯や方法などを考慮した指導をするべきとしている点が重要。
(3)神戸地裁尼崎支部H11.3.31判決(判例タイムズNo1011、P229)
【事案の概要】
県立高校の野球部の部活動中、ピッチングマシン2台を並べてフリーバッティングを練習していた際、1台にボールを入れる係りをしていた部員に、もう1台のマシンで練習をしていた部員の打球が、防球ネットが損傷していたためにネットを通過して当たった事例
【判断の理由】
部活動も学校教育の一環として実施される者である以上、顧問教諭は、生徒である野球部員を指導監督し、自己の発生を防止すべき注意義務がある。
指導教諭は、自ら防球ネットの損傷の有無を確認するか、あるいは部員に対し、絶えず確認し損傷がある場合には必要な補修をするように指導するべきであった。
(4)福岡地裁小倉支部H17.4.21
【事案の概要】
野球部員Aが、顧問教諭の指導に従って、バットをスイング中にあえて放投する練習をしようとしたところ、そのバットが右斜め後方に飛び、約7メートル離れた地点でティーバッティングのトス係をしていた野球部員Bの左目に当たった事例
【判断の理由】
野球部の練習の指導に当たる者は、部員の生命や身体に危険が及ばないように配慮して事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負う。
バットをあえて放投する練習の際には、その練習方法に慣れていないとバットがまっすぐ飛ばないことや、勢い余って右後方に飛んでいくことも予想しえたのであるから、野球部員Bらに対しても、声をかけたり移動を促すなどするべきであった。
(5)名古屋地裁H18.10.13判決(判例タイムズNo1241、P189)
【事案の概要】
県立高校野球部のゴロ捕り練習をしていた野球部員に、ノック練習をしていた野球部員のノック球が当たった事例
【判断の理由】
指導・監督に当たる者は、生徒の自主性をできる限り尊重しつつも、事故等の発生が予想される場合には、これを防止するのに必要な措置を積極的に講ずるという注意義務を果たさねばならない。
同一グラウンド内で複数の球が移動するような練習はしないこと、また、やむを得ず行う場合、参加者全員がその危険性を認識した上、とりわけノッカーに対しては、他の部員の動静を確認し、ノック球にも注意が向けられていることを確認した後でなければノックしないなどの指導をするべきであった。
(過失相殺4割)
◎学校の責任を否定した事例
(1)横浜地裁S63.3.30判決(判例時報No1249、P101)
【事案の概要】
野球部員が4~5メートルの間隔で並列してトスバッティング(バットを振りきらず、ワンバウンドで緩くピッチャーに打ち返す練習)をしていた際、被害生徒に対応するバッターの打球が被害生徒の左後方にそれたため、バッター側に背を向けて捕球しようとしたところ、隣の打者の打球が当該生徒に当たった事例
【判断の理由】
4~5メートル間隔で並列してトスバッティングを行う方法は、ピッチャーの体に打球が当たる可能性がないとは言えないが、隣のピッチャーの体に強い打球が当たる可能性は極めて小さい。
部員らは平常まじめに練習しており、本件事故に至るまでトスバッティング中に事故が発生したことはなかった。
(2)浦和地裁H1.3.31判決(判例時報No1327、P91)
【事案の概要】
ピッチングマシンを使った練習中、球を入れる部員と捕手との連携がまずくピッチングマシンから飛び出した球がよそ見をしていた捕手の頭部左耳上部を直撃し、頭部外傷により死亡した事例
【判断の理由】
当時、ピッチングマシンの危険性については一般に認識されておらず、かかる機械を導入したこと自体に学校側の過失があるとは言えない。
当該部活動においては、ピッチングマシンを使用にあたって、適切な安全確保の方法が上級生から下級生に伝えられており、本件事故当時も、その方法がとられていた。
(3)東京地裁H4.3.25判決(判例時報No1442、P121)
【事案の概要】
バッティング練習中に打者の後方で球拾いをしていた部員がにファウルボールが当たった事例
【判断の理由】
ファウルボールは、一般にさほど威力の強いものではない。
被害生徒は小学校4年生から少年野球で捕手を経験し、球拾いも相当習熟し、かなりの程度自らの行動を弁識し、これを自主的に決定する能力を有するとみられる。
シートバッティングという練習方法は、野球部における練習としては、通常行われるものであり、特に危険性の高いものではない。
これらの諸事情に照らすと、指導教諭は生徒の自主性を尊重しつつ指導すれば足り、本件事故の発生を具体的に予見可能であったとはいえないから、過失はない。
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2023年12月20日
【年末年始休業のお知らせ】
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2023年11月27日
解決事例を追加しました(相続人の中に認知症の方がいる場合の遺産分割)
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2023年9月13日
ニュースレター(2023年vol.18号)を追加しました。
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2022年5月30日
成年年齢引き下げをテーマにオンラインイベントを実施しました。
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2020年8月5日
東京弁護士会 子どもたちと弁護士がつくるお芝居「もがれた翼」無料配信のご案内
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2020年4月8日
子どもたちも!新型コロナ緊急事態宣言期間限定 無料電話相談「リーガル・ホットライン たいとう」のご案内
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2023年12月20日
【年末年始休業のお知らせ】
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2023年9月13日
ニュースレター(2023年vol.18号)を追加しました。
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2023年1月27日
解決事例を追加しました(自筆証書遺言の有効性が争われたが、遺言による遺贈が有効であることを前提に、交渉により早期に解決した事例)。
その他
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2023年12月20日
【年末年始休業のお知らせ】
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2023年5月22日
解決事例を追加しました(海外に出国したまま連絡が取れなくなった相手に対して離婚訴訟を提起した事例)
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2023年3月31日
法学教室2023年4月号に、弁護士佐藤香代の論考「学校で起きる紛争の特殊性と法律家に期待される役割」が掲載されました。